はじめに
決算が終わって、税理士さんからもらった決算書を見ていると突如「前払費用」って出てくることないですか?
実は、この科目、「家賃を払っている」か「保証会社を使った融資」があれば、今の時代必ずと言っていいほど出てくる科目です。
これは、家賃は今ほぼ前払いだから発生し、お金借りると保証会社に保証料が発生します。
ここで発生するのが、「君は今期に経費で落としていいのか問題」です。
結論は「あなたは、来年以降の経費の可能性があるよ!」と申し上げたい!
これは、費用と収益を対応させないといけないということです。
単純に保険を60か月前払いしたけど、今期は12か月しか上げられない
売上も同じです。
このように決算の時、当期の会計期間に費用を対応させる修正のことを「費用の繰延」といいます。
今回は、前払費用で「費用の繰延」と言われる処理と似たような科目「長期前払費用」「前払金」「前渡金」を見ていきます。
前払費用とは何者か?
まず、前払費用とはなにか?
企業会計原則を紐解くと、企業会計原則注解5経過項目勘定で
「前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。」とあります。
そして、法人税法基本通達2-2-14で
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
とあります。
何をいってるのかというと、「期間に応じて按分しろ」ということを長く説明してあります。
費用なのになぜ資産なのか
会計学上、「資産とは収益力(収入力・便益性)を有するもの(何かしらの権利を有するもの)」とあります。
保険=保証を受ける権利(便益)がある。
営業権(のれん)=ブランドを使用することができる権利(便益)
権利金=賃借物を使用できる(便益)
ということになりますが、何を言っているのかというと
保険の場合、
11月に12万円を支払った(決算期は12月)場合を例にとると
11月から12月分は2か月分は時に対応する。
1月から10月は来期に対応する←コレを「費用の繰延」といいます。
そして、この1月から10月の期間は「保険によって保証される権利がある」ということになります。
ですので、「保険の前払は資産となる」のです。
前払費用としての条件
なにがなんでも前払費用というわけではありません。
前払費用の条件とは
①契約書がある。→年払いをする場合、契約書で年払いの記載があること。
②継続的な役務提供である。→単発のサービス・役務の提供には適用しない。
③料金を支払っていること→未払では適用できない。
④支払った料金が、支払った日から一年以内の役務提供を受ける費用であること→一年を超えると長期前払費用
⑤支払方法や経理の方法を継続すること。→「今回は利益が出ていないから、前払費用にする」などの処理方法をころころ変えることは利益の調整につながるので、認められない。
⑥売上に対応する費用については、認められない。→不動産賃貸業で、受取家賃は月単位、支払家賃は年払いの場合、受取家賃に対応する支払家賃のみ経費とできる。
長期と短期で区別する
長期か短期で分けるためには、「正常営業循環基準」で判断し、判断できないものを「一年基準(ワンイヤールール)」で判断します。
①正常営業基準とは、営業サイクルである商品の仕入れから売上に至る流れの中である項目を「流動資産」と「流動負債」で考える。
これで、判断ができない場合
②決算の翌日から起算して一年以内に決済される資産又は負債を「流動資産」と「流動負債」と考える。それ以外は「固定資産」と「固定負債」と考える。
になるので
①長期は決算期末の翌日から一年を超えて役務の提供がされるもの
②短気は決算期末の翌日から一年以内に役務の提供がされるもの
となります。
ですが、ほぼワンイヤールールで考えることが多いです。
仕訳はどうなる?
例1) 保険料1年分を120円支払った。
前払費用 120 / 現金 120
決算で当期2か月分を計上する。
保険料 20 / 前払費用 20
次年度で残り10か月分を計上する。
保険料 100 / 前払費用 100
例2)保険料2年分を240円支払った。
長期前払費用 240 / 現金 240
決算で当期2か月分を計上する。
保険料 20 / 長期前払費用 20
次年度で12か月分を計上する。
保険料 120 / 長期前払費用 120
再来年度残り10か月分を計上する。
保険料 100 / 長期前払費用 100
となります。
このように期間に応じて、按分することが大事です。
消費税の処理
請負による役務の提供は、
①原則として、物の引き渡しを要する請負契約にあたっては、目的物の全部を完成して引き渡した日。
②物の引き渡しを要しない契約にあってはその約した役務の提供を完了した日
③請負を除く人的役務の提供の時期は、原則としてその人的役務の提供を完了した日。
とあるので
費用化するときに消費税の課税取引になります。
税務上の特例
しかしながら、平成31年3月現在では特例として以下の処理が認められています。
支払った日から一年以内に役務の提供を受けるものについては、支払った時点で一時に費用として処理することが認められている。
条件としては
①当期中に支払いが済んでいること。
→月払いの契約を一方的に一年払いにしてもダメ!(契約を一年に変える必要がある)
②翌期以降について、時の経過に応じて費用可されるものであること
→賃貸事務所の一年分の家賃(4月から翌年3月の会計期間)を2月に前払いする場合は、支払った時期から一年を超える対象とする前払費用のため、短期前払費用の特例は受けられない。
③一定の契約に基づき継続的にサービスの提供を受けるものであること(等質・等量のサービスであること)
→顧問税理士への報酬を期末直前に一年分を前払いしてもダメ
→期間限定の雑誌広告料やテレビCM放映料の広告宣伝費を前払いしてもダメ
④役務(サービス)の提供の対価であること
→借りているマンションやビル等を転貸して、賃料収入がある場合、支払家賃は収益に直接対応する費用なため短期前払費用を受けれない。
前払金と前渡金のちがい
最後に、似たような科目で前払金と前渡金の違いです。
定義では
前払金→商品や役務の提供を受ける前に、その代金の一部又は全額を支払った場合に生じる一時的な債権であり、「継続して役務の提供を受ける場合」に該当しない。とあります。
注意としては「商品・サービスなどの給付を請求する債権」のため、金銭債権ではないということを気を付けましょう・
つまり、「貸倒引当金の対象にはならない」ということです。
ただし、商品の引き渡しがなかった場合は未収入金に振り替える処理が必要です。
前渡金→「前渡金は商品、原材料等の購入のための前渡金をいう。ただし、破産債権、再生債権、更生債権その他これらに準ずる債権で一年以内に回収されないことが明らかなものを除く」とあります。(財務諸表等規則15条11号)
簡単に言うと
材料費の前払したお金は、前渡金
それ以外は、前払金
という考えでいいと思います。
いかがでしたでしょうか?
このように、ルールを守って会計処理を行いましょう。
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